2.18

つけ麺やすべぇという店がある。

かつて、つけ麺ブームの波とともに都内各地に出店したつけ麺チェーン店である。

以前は、下北沢にもちょうどいい場所にそのやすべぇがあり(ぼくがよく自転車を停める場所のすぐそばだった)、飲んだ帰りやライブに行ったあとなど時たま利用していた。足繁く通っていたということもない。ホントに時々行く程度の店である。

今ではつけ麺ブームというものがやや下火になったきたのもあり、やすべぇの勢いもやや落ち着き、下北沢店も閉店してしまった。


そんな折に、池袋で仕事があった。午前中で終わる仕事だったのだが、なんだかんだと終わったのは15時近くだった。なので池袋で何か飯でも食べて帰りたい、と思うものの、あまり土地勘もなく何かを探すのも面倒だった。

池袋という街はもちろん大きくて何でもあるけれど、ぼく個人としてはなんだか雑多で、歩いているとすこし寂しくなって、ちょっぴりいかがわしいという印象だった。でもそんな感じが決して嫌いにはなれない街だった。

その池袋をブラブラしていると、やすべぇがあった。懐かしかった。そういえば高校生くらいのときに、まさにこの場所のやすべぇに来たことがあった。ぼくは遅めの昼食をここに決めた。

時間も時間だしガラガラかと思っていたが、5〜6人ほど客が入っていて皆、当たり前だがつけ麺を食べている。

食券を買い、元気のない店員に渡す。椅子に座り、つけ麺を待っている間、音楽もない店内は独特の空気を放っていた。かつての隆盛が、今は立ち消えたやすべぇの寂しさのようなものが店内に漂っている。店員は1人で黙々と麺を茹でている。客も、池袋のいかがわしさを体現したような派手な女性と、いやに肌の黒い中年の男、オタクみたいな青年が1人。なんだか、池袋、なのだ。そして、その池袋のやすべぇ、なのだ。そんな感じがする。説明はできない。

つけ麺が到着して食べると、記憶がフラッシュバックする、ということもなかったが、確かにその味を思い出した。妙に甘くて、酸味もある。これがやすべぇだ。

ものの5分程度で一気に食べ終わる。元気のない店員の、元気のない挨拶を背中に感じながら外に出ると、池袋の見慣れない街が目に入った。


やすべぇが無くなっても、きっとぼくは困りもしないし、感慨にも浸らないはずだが、まだあるというのなら、また食べに行きたいと、なんとなく思った。